「幸子」

「ん?」

「すっげえ可愛い」

 俺とお揃いの黒いキャップを被った幸子は、いつもとイメージががらりと変わり、可愛さが更に倍増したように俺には思えた。

「お兄ちゃんも、超かっこいいよ」

「そ、そうかな」

「ねえ、どこへ行くの?」

「山梨」

「例の別荘?」

 ”例の別荘”とは、本当は父さんの別荘なのだが、今や田原のおじさんがアトリエに使っている別荘の事だろう。

 前に田原のおじさんから、夏休みにでも幸子と一緒に来なさい、と言われた事があり、それもあって山梨行きを思い付いたのだが、厳密には、目的地は別荘ではない。

「別荘ではなく、その近くの湖に行こうと思うんだ」

 俺は立ち止まり、幸子の目を見てそう言った。湖へ行く目的を幸子に伝えなければいけないのだが、辛くてそれを口に出せず、俺はジッと幸子を見つめていた。

 すると幸子は瞳を揺らし、繋いでいた俺の手をギュッと握り、俺も強く握り返した。

 やはり頭のいい幸子は、俺の計画をわかってくれたらしい。そして、同意してくれたのだと思う。湖の底へ、一緒に沈む事に。