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 ある日の夜。私の部屋にお母さんが来ていた。

「幸子はすっかりこの家に慣れたみたいで、私、ほっとしてるの。なんか幸せそうだし、直哉君とのお付き合いは順調なようね?」

「う、うん。まあね」

 私は母に、直哉さんと別れた事を言っていない。その方が都合が良いと思ったから。ちなみにお兄ちゃんも、麗子さんと別れた事を父に話していないようだった。

「真一さんとも、ずいぶん仲良くなったわよね?」

「う、うん。そうだね」

 急にお兄ちゃんの名前が出て、私は動揺してしまった。

「良かったわあ。彼、私にも優しくなったのよ?」

「そうなの?」

「うん。前はすれ違っても知らん顔されたりしたけど、最近はご挨拶してくれるようになったの。私、それがすごく嬉しくて……」

 母はそう言って涙ぐんだ。そう言えば、お兄ちゃんから母や私への恨み言みたいなのは、ずいぶん聞いてないと思う。

「お母さんはどうなの? この家に慣れた?」

「やっと慣れてきたわ。最初はすごく戸惑ったの。だって、今までは朝から晩まで仕事してたでしょ? それが急に無くなっちゃって、しかも家事はみんな家政婦の三田さんがやってくれるから、私は手持ちぶさたで困ってたの。

 でもね、その三田さんとずいぶん仲良くなって、例えばあの人はテレビドラマにすごく詳しくて、その話を聞いてるだけでも楽しいの。フラワーアートなんかもやり出して、だんだんとペースが掴めてきたわ」

「良かったね。でもさ、お母さん、ちょっと太ったよね?」

「そうなのよ。目下、それが唯一の悩みね」

 とか言って、母も私も笑った。心の中では、母に謝りながらだけど。考えてみたら、母に隠し事をするのは、生まれて初めてだと思う。