「うちの車で送って行く?」

「それはいいです。取りあえず保健室へ連れて行きます。顔が腫れてるんで」

「そう? あの、コレは持てる?」

 あ、そうか。麗子さんが手に提げてるのは、お兄ちゃんのスクバなんだ。私を抱っこしたままじゃ持てないよね。

「お兄ちゃん、降ろして。自分で歩けるから」

「ほんとに? 大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ……」

 お兄ちゃんはそっと私を降ろし、私の肩をしっかり抱き寄せてくれた。

「行こうか?」

「うん」

 私は麗子さんにお辞儀をし、お兄ちゃんに支えられながら校舎へ向かって行った。

 こんな風に、私がお兄ちゃんにくっ付いてたら、麗子さんがヤキモチを妬くんじゃ、なんて一瞬思ったのだけど、そんな心配はいらないのだとすぐに気付いた。だって、お兄ちゃんと私は兄妹なのだから。

 その瞬間、また胸の辺りがキューっとなって、私は気付いてしまった。いつの間にか私は、お兄ちゃんの事を好きになってるんだって。すごく、すごく好きなんだって。叶わないのに……

 私は悲しくなり、我慢できずにしゃくり上げたら、

「可哀想に、思い出したのか? あんなの、忘れちゃえばいい」

 お兄ちゃんはそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。急に優しくなったお兄ちゃんに、想いがますます膨らむのを、私は感じていた。