「幸子」

 やっぱり当たった。お兄ちゃんの息が、私の顔に。それにしてもお兄ちゃんの顔って、本当に綺麗。肌が滑々してそうで、触ってみたいかも。触ったら怒られると思うけど。

 おっと。返事をしないと、また怒られちゃう。

「は、はい、お兄ちゃん」

「違うだろ?」

 違うって? ああ、そうだった。二人の時は”お兄ちゃん”て呼んじゃいけなかったんだ。

「真一様」

「よし。決まり事を追加する」

「え? どんな……」

「帰りは、必ず俺のところへ来い」

 今度は何を言われるのかと思ったけど、そんな事?
 初めからそう言ってくれてれば、私は迷わずに済んだのに。お兄ちゃんって、意外と抜けたところがあるみたい。可笑しい……

「返事は?」

「あ、はい。でも……」

「でも、なんだ?」

「出口は、1組より3組の方が近いかと……」

「あ。確かにそうだな。だったら、俺がそっちに行くから、それまで待ってろ。いいな?」

「うん、わかった」

 やっぱりお兄ちゃん、抜けてるわ。可笑しくて、つい笑ってしまったのだけど、

「なに笑ってんだよ。生意気だから、お仕置きだ」

「だ、ん……」

 ”だって、お兄ちゃんが可笑しいから”って言おうと思い、口を開きかけたのだけど、一瞬でその口を塞がれてしまった。お兄ちゃんの口で……