唇を離すと、幸子は大きな目で俺を見上げだ。

「兄妹で今みたいな事、しちゃいけないと思う」

 生意気な事に、幸子は俺に抗議した。

「生憎だが、俺はおまえを妹とは思ってない。だからキスはするし、もっと先の事だって出来るさ」

「酷い……」

「恨むなら、母親を恨め」

 駅に向かって無言で歩いていたら、一台の黒塗りの車が俺たちを抜き、前で停車した。そして後部座席のドアが開き、中から幸子と同じ制服を着た女が出て来た。

 わかってはいたが、麗子さんだ。嶋田麗子。旧家の令嬢で、俺達と同じ3年だ。そう言えば、彼女は何組なんだろう。

「真君。クラス、また別れちゃったわね?」

「そうですね。麗子さんは何組なんですか?」

「2組よ」

「あ、そうなんでか」

 なるほど、俺とも神徳とも違うクラスか。おそらく例の"内規"のせいだろう。

 俺と麗子さんは公然のカップルだから当然としても、実は麗子さんは神徳にも色目を使っているのを、学校は知っているのかもしれない。偶然の可能性もあるけども。

「ねえ、乗って行かない?」

 麗子さんは、予想した通りの事を言ったが、

「すみません、連れがいるので」

 と、俺は断った。すると麗子さんは、キッて感じで幸子を睨み、「わかった」と言って車の中に戻って行った。

 車が走り出す前、

「急げば、神徳君に追いつくかもしれませんよ?」

 と俺は言ったが、果たして麗子さんの耳に届いたかどうか……

 今まで俺は何度か麗子さん、と言うより嶋田家の車に乗り、嶋田家を訪れている。そして、麗子さんの部屋で、彼女と関係を持った事も……

 しかしこれからは、嶋田家に行く事はないだろう。このままずるずると関係を続け、麗子さんと結婚、なんて事になっては困るから、俺としてはちょうど良かった。

 あんな高慢ちきで我儘な女と結婚なんかしたら、人生の終わりだからな。