俺と幸子は校舎を出て、中庭を歩いていたが、ふと俺は幸子の腕を掴んで立ち止まった。そして、「村山君、さようなら」、「はい、さようなら」とか言って何人かをやり過ごし、人がいなくなった隙を見計らうと、幸子の腕を引っ張って素早く体育館の裏に行った。

 そこは北向きで昼間でも薄暗く、周りからは死角になっている。俺は幸子を壁の前に立たせ、左手で彼女の右腕を掴みつつ、右手は幸子の頭の上の壁に当てた。いわゆる”壁ドン”だ。家に帰ってからとも思ったが、待てなかったのだ。早く幸子に文句を言いたくて。

「幸子……」

「は、はい、お兄ちゃん」

 幸子は、怯えたような目で俺を見上げた。実際、怯えてると思うが。

「違うだろ?」

「あ、真一様」

「よし。決まり事を追加する」

「え? どんな……」

「帰りは、必ず俺のところへ来い」

 俺がそう告げると、幸子は初めポカンとし、次にフッと笑った。そう言えば、昨夜の晩飯の時もこんな笑い方をしたのを思い出す。癪に障るが、ちょっと可愛いかな、と思ってみたり……

「返事は?」

「あ、はい。でも……」

「でも、なんだ?」

「出口は、1組より3組の方が近いかと……」

「あ。確かにそうだな。だったら、俺がそっちに行くから、それまで待ってろ。いいな?」

「うん、わかった」

 と幸子は言いながら、今度はクスッと笑った。

「なに笑ってんだよ。生意気だから、お仕置きだ」

 幸子は何かを言おうと口を開きかけたが、俺は瞬時にその口を塞いだ。俺の口で。

「ん……」

 そして、俺は右手で幸子の左胸をムズッと掴んだ。上着の上からだが、やはり幸子の胸は意外に大きい、という事を確認したのだった。