「うわあ。この部屋も素敵ね? 広いし」

 母が部屋を見回して言った。

「でしょ? この部屋もって事は、お母さんの部屋も素敵なのね? 行ってみていい?」

 と言ったら、なぜか母は首を横に振った。

「私の部屋は、ないの」

「……うそ。そんなの酷い!」

 まさか、母がお部屋を貰えないなんて、考えてもみなくて、私はすごく腹が立ったのだけど……

「そうじゃないの。私は……幸久さんと一緒のお部屋なの」

 母は、頰をポッと紅く染めた。それって、つまり、母と父はいつも一緒で、当然ベッドも……きゃっ。

「良かったね、お母さん!」

 私は思わず、母に抱き着いた。ちなみに幸久さんは父の名前。私の名前の幸子の"幸"は、父から一字を戴いたらしい。だから私は、自分の名前が大好きなんだ。

「うん、ありがとう。真一君も優しい人で、ほっとしちゃった」

 いきなりお兄ちゃんの名前を聞き、私はハッと息を飲んでしまった。

「どうしたの、幸子?」

「ううん、何でもない」

「あなた達ったら、いきなり手を繋いだりして、すっかり仲良しになったみたいね? ずいぶん話し込んでいたみたいだけど、どんなお話をしていたの?」

「ん……学校の事とか、色々」

「そう? 私も幸子の学校の事は心配だったんだけど、真一さんがいてくれれば安心ね?」

「う、うん」

 私も初めはそう思ったけど、今はむしろ不安。どんな仕打ちをされるのやら……

 とにかく、私は母が辛い思いをしないように、たとえ自分が犠牲になってでも頑張るつもり。何をどう頑張るのかは、わからないけれども。