「きゃっ、やめて!」

 私は誰かに肩を揺すられ、てっきりお兄ちゃんに触られたと思い、慌てて体を起こした。いつのまにか、ソファで眠ってしまったみたい。

「どうしたの? 怖い夢でも見てたの?」

 そう優しく言ってくれたのは、母だった。

「部屋が薄暗いわね。明かりを点けましょうね?」

「うん」

 さっきはすごく明るかったのに、私ったらどのくらい眠っていたのだろう。

 母がドアの方へ行った隙に、私は指で目の周りを擦った。涙の跡を、母に見られないように。

「あら?」

「どうしたの、お母さん?」

「照明のスイッチが、どれだかわからなくて……」

「もう、しょうがないなあ」

 と言いながら、私もドアのそばへ行ってみたのだけど……

「どれだろうね?」

 白い壁に何かのスイッチ類が色々あって、どれが照明のスイッチなのかわからない。

 仕方なく手当たり次第にパチパチ押していったら、

「あ、点いた」

「点いたね。でも……」

「暗くない?」

 ちっとも明るくなくて、前に母と行ったホテルを思い出した。ホテルなら少しぐらい暗くても我慢できるけど、毎日過ごすお部屋がこれではなあ。と、暗い気持ちになったのだけど、

「この丸い所、回せるみたいよ」

「回してみて、お母さん」

「そうね」

 母がそれを右に回したら、段階的に照明が明るくなり、最後まで回すと明る過ぎるくらいだった。

「すごーい!」

「私達って」

「めちゃくちゃ庶民なのね?」

「だね。この家に慣れるの、大変だわね?」

 なんて言って、ウフフと二人で笑った。

 家もさる事ながら、私はあのお兄ちゃんに慣れるなんて出来るのかな。あの俺様に。

 ううん、お兄ちゃんは俺様どころじゃない。お兄ちゃんは……鬼畜だわ。