教科書を閉じ、俺は螺旋階段をゆっくり降りて行った。

 見下ろせば、まだ40歳そこそこで、とても大会社の社長には見えない父親と、その後ろから二人の女がエントランスに入って来るところだった。

「父さん、お帰り」

「お、おお」

 父親は、無理に作ったであろう笑顔を俺に向けた。内心は気まずさで一杯だろうと思う。

「これが息子の真一です」

 二人の女に向かい、父親が俺を紹介した。

「真一です。よろしくお願いします」

 俺は、得意の作り笑いを顔に浮かべて言った。ただし、1ミリたりとも頭を下げずに。

「こちらは加代子さんと、娘さんの幸子さんだ」

「よろしくお願いします」

 女達の苗字を言わないという事は、もう籍を入れたという事か。村山家の籍に。おやじの奴、やっぱり手が早いな。

「幸子さんは僕と同い年だよね? よろしくね?」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 幸子という女は、顔を紅くして俺にお辞儀をした。小さくて、地味で、大人しそうな女だ。こいつなら、虐めやすそうだな、と俺は思った。