「幸子!」

「お母さん!」

 母と父が、長野の別荘からここ、山梨の別荘に駆けつけてくれて、私は母に抱き着いているところ。

「もう、心配かけないでちょうだい?」

「ごめんなさい、お母さん。田原さんが助けてくれたの」

「そうなの? 田原さん、ありがとうございました」

「いえいえ」

「助けられたって事は、何か危ない事をしたの? あなた達」

 え?

 あ、そうか。母達は知らないんだった。私とお兄ちゃんが心中しようとしたのを。言うべきなのかな。それとも言わないべき?

 私が迷っていたら、

「真君が足を滑らせて湖に落ちちゃってね。私が助けたのさ」

 と田原さんが言ってくれて、私にこっそりウインクした。お兄ちゃん似の、素敵な笑顔で。

「おお、それは良かった。啓介、ありがとうな?」

 と父は言った。田原さんの下の名前って、啓介さんなのね。

「それはそうと、啓介。髭を剃ったって事は……」

「ああ、二人に話したよ。全てを、包み隠さずな。二人とも解ってくれたよ」

「そうか。真一、ずっと騙していてすまなかった」

 父はお兄ちゃんに頭を下げた。

「いいよ。父さん達の事情はよく解ったから。それより、俺はまだ”父さん”って呼んでもいいのかな?」

 お兄ちゃんのその言葉で、空気が一気に凍ってしまった気がした。