「馬車が戻られました!」

祈るように待ち続けていた私に、マリンの声が飛んできた。







慌ててショールを羽織り、降りてくる2人を待つが、ふと御者の表情に違和感を感じた。

我が家の馬車の扉を開けてもらい降りてきたのは、シェヴァ王子とその側近だった。

もちろん使用人の中にも衝撃が広がり、ざわざわとする。

私も驚いて言葉も出ない。







フォルティスとお父様が出てこないだけでなく、どうして、、、、??

「久しぶりですね、リリアンヌ嬢。」

少し疲れた表情のシェヴァ王子が向き合うように立った。

「あの、お父様はどうしていないんでしょうか?」






怖い。どんな言葉が返ってくるのか、、、

1秒が長く感じられる、、、









「国王毒殺の容疑で捕縛されたよ。」

耳を疑うような内容だった。

耳から言葉がこぼれ落ちて、意味が入って来ないような感覚。

「ど、どうして、、、」

「君の婚約者と組んで国王を殺そうとしたらしい。

議会で無実が証明されたその後、労ってくれるために晩餐に呼んだ国王のワインに毒が入っていたんだ。

幸い、俺の部下が毒味を申し出てくれたから無事だったが。

さすがの国王も信じられない様子だった。」

悔しそうに語るシェヴァ王子まで怪しく見えてしまう。

本当のことだと信じられるはずがない。

フォルティスがお父様と結託して、国王を毒殺しようとしていたなんて。

2人で帰ってくることを信じていろって言ってたのだから。

ショックのあまり、足から力が抜けた。

へなへなとその場に崩れ落ちると、シェヴァ王子に支えられた。

そのまま抱き抱えられてざわめく使用人の間を進み、客間まで入る。

慌ててマリンが追いかけてくる。






「騎士団的にフォルティス殿にはいてもらわなくては困るらしい。

だから、彼は君の名誉と公爵家を守るために、私との婚約に変更するという提案に同意したようだ。

急な話で受け止めきれないかもしれないが、付いてきてほしい。

私もさっきそれを同行していた大臣に伝えられて、国に書状を送ったばかりで動揺しているけれど、嫌な思いはさせないと約束するよ。

私の国で必ず守るから。

そうしたら、スタゴナ公爵家はお家取り潰しだけは免れる。

今使用人たちを守れるのは、君だけなのだから。」

フォルティスが私との婚約を破棄したということ、、、

確かに家を守るためには、そうするしかないかもしれない。




でも、何か引っかかる。

そんなに簡単にフォルティスは諦めるのかしら。

思い上がっているわけではないけれど、フォルティスも私との結婚を楽しみにしていてくれたはず。

フォルティスにも何かしらの処罰があると思うけれど、もしかしたら解決するための作戦を考えているかもしれない。

どうにかしてフォルティスの作戦を知れれば、協力できるのに。

でも、王宮で捕らえられているだろうフォルティスと、すぐに連絡を取るのは不可能だ。

会って話せれば1番だけれど、面会はできないはず。

それに、今の私には他国に嫁ぐという選択肢しかないらしいから、もう、会えないかもしれない。

でも、長い間働いてくれていた使用人たちを守るためには大人しくついていくしかない。

騎士団にいるカイのことも守らなくてはならないし。

フォルティスが助けに来てくれると信じているから、あまり遠くに行くわけにはいかないのだけど、しょうがない。






荷物をまとめると嘘をつき、使者たちの目から逃れると、マリンに紙とインクを持ってきてもらい、こそこそとカイに手紙を書いた。

急ぎの手紙だと伝えて、現時点で分かっていることを書き込んだ。

帝国に行くことは書いたから、安否は伝わるはず。

裏口からカイのいる騎士団の詰所まで、屋敷の警備の1人に早駆けしてもらう。

今日だと日没までに帝国の城内にたどり着けないので、明日の朝、出発するらしい。

返事のタイムリミットは明日の朝食前だ。