だけど、本人の口からそうとはっきり聞いたわけではない。ニュアンスとしてそうではないかと伝わってきただけだ。時期もまだ初夏。嫌うほど沼田とは接触していないかもしれない。
 ただ、味方に付いてくれたら、確実に私たちの身の潔白は証明できる、そんな人物だった。

「保健室、行こう」

 迷ってる時間はあまりない。

「保健室?」
「もしかしたらだけど、味方になってくれるかもしれない」

 戻る前、風邪をひいて一度だけお世話になった影森先生。あのときのやり取りだけで、彼が沼田を嫌っていると決めつけるのは早計だと思う。だけどそれを抜きにしても、あの先生の人柄なら、話を真剣に聞いてくれるんじゃないかと思えたんだ。

 美濃部さんは少し不思議そうな顔をしていたけど、ぐずぐずしてる暇はない。この短時間では他に心当たりも思い付かなかったらしく、最終的には私の判断に事の行く末を委ねてくれたようだった。

 ――コンコン。

 ここに来るまでに誰にも目撃されていないことを願いながら、極力静かに扉を叩いた。
 でも、中に影森先生がいなかったらアウト、そして影森先生以外がいてもアウト。結構ぎりぎりの賭け。

「どうぞー」

 固唾を呑んで待つこと数秒、聞こえてきた声に、一先ずホッと胸を撫で下ろした。
 でも油断しちゃいけない。私はそっと扉を開けると、素早く体を滑り込ませる。美濃部さんもそれに続き、もう一度左右を見てから誰もいないことを改めて確認し、扉を閉めた。二人、詰めていた息を吐き出す。

「何それ、新しい遊び?」

 振り向くと、影森先生は私たちを見て笑っていた。どうやら奇行に映ったらしい。
 さっと目を走らせる。二つあるベッドは両方ともカーテンが開いていた。先生以外、誰もいない。賭けには勝ったようだった。

 私と美濃部さんは顔を見合わせる。
 ここまで勢いで来たけど、どうやって切り出せばいいのだろう。彼女に至っては、恐らくちんぷんかんぷんだ。何故ここへ来たのかすら分かっていないはず。ここは、私が説明しないとならない。

「具合が悪いようには……うーん、見えない、かな? でもサボりって感じでもない」

 私たちを見ながら、先生は面白そうに分析を始める。

「遊びじゃありません。具合が悪いわけでもないし、サボりでもありません。ただ、追いかけられてはいます」

 そう言うと、先生はぎょっとしたようだった。

「校内に不審者でもいた?」

 腰を浮かしかける。事と次第によっては今すぐ職員室に報告しなくては、そんな勢いだった。

「違います違います、沼田です」

 大事(おおごと)になったら大変だと、私は慌てて訂正する。
 あ、しまった。焦ったから、ついいつもの癖で呼び捨てにしてしまった。

「沼田? 生活指導の?」

 だけどそんなこと、先生は気にも留めなかったようだ。そして私は、沼田の名前を復唱したとき僅かだけれども、先生の眉間に皺が刻まれたのを見逃さなかった。
 どうやら、ここへ来たのは正解だ。
 それに背中を押され、私は意を決して語り出した。