ズッと鼻をすすって、
かすみは涙を雑に自分の手の甲でぬぐった。

しかし、涙はかすみの意志に反して、
とめどなく溢れだして。

かすみの泣いている所を一度も見たことが無かった俺は、爆発寸前だった苛立ちが急激に冷めていった。


かすみは泣かない奴だと思っていた。


どうしていいのか分からない。
謝るくらいしか、俺には思いつかなかった。


「ごめ」

かすみの涙を拭こうと手を近づけると。

「謝らないでよ!」

そう言って俺の腕をパシッと振り払うと、
玄関から暗闇の中へ出て行った。


俺は玄関に一人、取り残された。


彼女を追いかける勇気もなかった。


それから、学校ですれ違ってもかすみと目が合うことはなくなった。