その日、家に帰ると玄関にかすみがいた。
怒った顔で俺に言う。
「ねぇ!レオ、どうして殴ったの!」
かすみは玄関に入った俺につかみかかる勢いで俺に詰め寄ってきて。
「あんな奴、殴られて当然」
俺が目を逸らして言うと、
かすみは目を見開いて。
俺から離れると静かに言った。
「どうしてそういうこと言うの。ねぇ」
そんな顔をされると何も言えない。
本当のことを言ったらかすみが傷つくことは分かっている。
だから、本当のことは何も言えない。
「そんなの。レオじゃないよ」
俺の中で絶えずドクドクと流れている苛立ちが少しずつむき出しになって、俺を苦しめる。
「レオは変わっちゃったんだね」
真っ直ぐな瞳で俺を見るかすみの視線から、
逃げるように目を逸らした。
「で、何の用事?」
「え…」
「それだけ?彼氏の代わりに俺に文句言いに来たんだろ?女々しい野郎だな」
無理に笑う俺を見て分かりやすくうろたえるかすみに、俺の苛立ちは爆発寸前だった。
「別れた」
かすみは震える声で言った。
信じられない光景だった。
何があっても泣かない、あのかすみの瞳から
俺を睨むかすみの瞳から、
スウッと一筋の雫がこぼれおちた。