ーーー「それで、何の用でしょう」


診療所の前で話しかけられた私は、診察して欲しいという彼を放っておけずに中に入れた。
これも医者の性なのか・・・


「言っただろう。診察して欲しいと」

「いや、ですから・・・あなた貴族ですよね?それもかなり上流の。お抱えの医者がいたっておかしくないのになぜこんな庶民向けの診療所に来るんです?」

正直あまり関わりたくないので、素っ気ない対応をする。いつも素っ気ないだろうがそれ以上に。


「確かに専属の医師はいる。しかし専属の医師に診てもらったことはすべて家の者に筒抜けだ。俺が病気だと広まるのはよくない。だからここを選んだ」

「・・・あなた、私に身分を明かす気は?」

「ない」

簡単に明かしてもらえるとは思わなかったが、万が一彼が王族だった場合は本当にしゃれにならないのだ。もちろん貴族だって何かあればただではすまないが、王族はこの国の象徴でありなくてはならない存在。とても大切な存在だから、医師も国で一番の名医ばかりが王宮には常駐している。
なのに一介の町医者が王族を診察して、悪化するようなことがあれば牢に入れられるどころではない。
自分だけでなく一族郎党、私と関わりを持った者まで殺されるかもしれない。



「もし、貴方が王族だった場合に私が診察して何かあれば私の家族まで罰を受けることになるんです。ですからあなたを受け入れることは・・・」

「オーガスト」

「え?」

「オーガストがおまえのところに行けと言ったんだ。専属の医師ならば報告されるから、町で医者をしている自分の弟子のところに行けと」


オーガストは私の独り立ちと同時に王宮のお抱え医師となった。
そのオーガストが勧めたと言うことは、目の前にいるこの男は王族なのだろう。


「はあー。正体は言わないとおっしゃいましたが最早言ったも同然。師の顔をたてるためにも診察はしましょう。しかし治療をするかどうかは約束しません。いいですね?」

「わかった」


とりあえずハルが帰ってくるまでに終わらせなければーーー