ーーー「取り消して、今すぐ!私の大好きな第四区の人たちを馬鹿にしないで!!」

ーーー「患者でないなら帰ってください。あとビンタについては謝るつもり、ありませんから」


剣術や体術の練習でけがをすることも殴られることもあった。
しかし頬を平手打ち、しかも女にやられるなんて初めてのことだったし、されると思わなかった。


将来の国母、そんな座ほしさに自分に媚びばかり売ってくるそこら辺の女とは違い、意思のある強いまなざし。
相手が王子であることは知らないまでも身なりから完全に、自分よりも身分が高いと察したはずだ。それなのにそんな相手に臆さず立ち向かう強さ。

何もかもが周りの女と違う。だからこそ・・・


「もっと知りたい」


コンコン

「入れ」

「失礼します。ラシェル様、本日はハーブティーをお持ちしました。このハーブティーには安眠効果があるとか」

「そんなもので眠れるとは思わないが、折角煎れてくれたんだ飲むとしよう」

「はい。では私はこれで。お休みなさいませ」

「ああ」


ハーブティーを持ってきてくれたセインが退出すると、窓際にもたれかかりハーブティーを飲む。

「安眠か・・・」

一体何年安眠なんてしていないだろう。もう安眠がどんなものかさえ思い出せない。


「・・・眠れない」



銀色に輝く三日月を眺めながらラシェルは、これから始まる眠れない長い夜にため息をつくのだった。