跡取りになる男の子のいないレティシア子爵家。その第一子として私は昔から、将来の自分の夫が次期レティシア子爵のなるのだと教えられてきた。

しかし家は一向に再興せず、貧しくなるばかり。
自分が医者になって家を支えようと決め、オーガストに弟子入りした。

念願叶って医者として独り立ちしたとき、これから自分は一生この仕事でレティシア子爵家を金銭面で支えていこうと思った。しかしそのときはすっかり忘れていた。

(ーーーもし私がこのまま医者を続ければコーネリアが、レティシア子爵家を継ぐ者と結婚しなければならない・・・?)


貴族の中では女性が労働なんて御法度。このまま私が医者を続ければ私は結婚なんてできない。
そうすれば望まない相手と結婚するのはコーネリアだ。


(私の可愛い妹、コーネリア。彼女には本当に好きな人と結婚して欲しい)

医者を続けつつ、跡取りも手にする。理想は私が結婚してからも働くこと。だけれどそれは不可能に近い。ならばーーー


(私が跡取りになるしかない)

女性が当主になることは禁じられてはいない。しかし歴史上ほとんどいないことは事実だ。
しかしなるしかない。


まずは両親の説得。当主としての知識などすぐに身につけられる、今すぐ取りかかるべきなのは剣術や体術だ。

そのために私は剣術の心得がある人に教えを請い、剣術と体術を身につけた。
だから強盗くらいなんてことはない。


「シエルちゃん・・・?」

「っ、」

「大丈夫?やっぱり疲れたよね?」

どうやら昔のことを思い出してぼーっとしていたようだ。


「大丈夫です。少し考え事を」

「そっか。・・・それにしてもあの人たちは誰だったんだろうね」

「さあ・・・まあ二度と来ないでしょう」


というか来て欲しくない。


「ではこれで終わりましょう。ノーラさん、ハル、お疲れ様」

「「はい」」


こうして大変濃い一日は終わった。