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「シエルお姉様、お眠りになられましたか?」

コーネリアが問うと、返事のかわりに静かな寝息だけが聞こえてくる。

「・・・毎日お忙しいですものね」


第四地区唯一の医者として毎日働きづめの姉。人々を助け、自立した生活を送る姉の姿はとてもかっこいいと思うし尊敬している。だけどーーー

「シエルお姉様は子爵家の娘です。生活も少しずつよくなっています。もうただの令嬢に戻られてもいいのに・・・」


子爵家の令嬢として、屋敷の中でずっと育ってきたコーネリア。だから貴族の男性と結婚して家庭を作ることが幸せだと思っている。
しかし姉は10歳の頃から医者になるためオーガストに弟子入りし、屋敷の外で過ごすことが多かった。

だから根本的に人生観が違うのだろう。それはわかっている。
だけど毎日毎日医者として働いて、自分の時間をゆっくりとることもできない。
そんな生活では姉はこの先結婚すらしないだろう。
そして死ぬまでその生活が続くのだ。果たしてそれは姉にとっての幸せなのだろうか。


「んん・・・」

コーネリアがそこまで考えたとき、こちらに背中を向けていたシエルが寝返りをうった。
寝返りを打ったことで姉の顔がコーネリアからよく見えるようになった。


(こんなにおきれいなのに・・・)


金髪の自分や母、黒髪の父と違いチョコレート色の髪を持つ姉は透き通るように白い肌の持ち主だ。華奢な体で、まつげも長く、大きな瞳は髪と同じチョコレート色、唇はピンク色でぷっくりとかわいらしい。

レースや宝石で飾られたドレスを着せ、軽く化粧を施したらどうなるだろう。
きっとカルミア王国一の美姫だ。