「え……?」


驚愕の表情を浮かべる梨華。


そんな梨華の顔を見ながら、私は話を続けた。


「だから梨華、今ならまだ充分に間に合うよ。

手術を受ければ、もうこんなつらい入院生活なんてしなくて済むし、仕事にも復帰出来る。

結婚もしなくていいし、すぐにでも気楽な日常生活に戻ることが出来るんだよ。

だから、早く手術の手続きをしようよ。

私が先生に話して来るね」


そう言って立ち上がると、梨華が突然バシッと私の腕を掴んだ。


「何を言ってるの? 菜穂……」


「何が?」


私はとぼけた顔をして見せた。


「いやよ、そんなの。絶対いや!

赤ちゃんを中絶しろだなんて。

なんでそんな残酷なことが言えるの?

菜穂がそんなひどい人だと思わなかった……っ」


私の腕を掴む梨華の手がブルブルと震えている。


私はそんな梨華を見下ろしながら、フンと冷たく息を吐いた。


「残酷……? 私が……?」


「そうよ! 残酷よ! 赤ちゃんを殺そうとしてるんだもの」


静かな個室。


私の腕を掴んだままの梨華と私は、じっと睨み合っていた。


「残酷なのはどっちよ」


「え……?」


くしゃっと顔を歪める梨華。


もう、本当に我慢ならない……。


私の怒りは、ピークに達していた。


「あんた、いい加減に目を覚ましなさいよ!」


私はそう言うと、梨華の手をバシッと振り払った。