俺の言葉を聞いた梨華が、大きく目を開いた。


頭の回転の速い梨華だけど、さすがにこれには頭が真っ白になっているようだ。


「確かに俺……。

俺がお腹の子の父親になってやるから、結婚しようって言ったよ。

俺がそう言ったことで、梨華が子供を産む決心をしたのだとしたら。

婚約を破棄した俺にも責任が生じるかもしれない。

だけど、お腹の子は俺の子じゃないし。

俺とお前は性的関係が一切ないんだ。

つまり俺は、梨華に精神的ダメージを与えた張本人ってわけじゃない。

そうなると裁判所は、誰の罪が一番重いと判断するかな……?

俺は、不倫相手の男だと思うんだけど……。

違う……?」


法律のことは、よくわからないけれど。


普通に考えたら、一番悪いのはその男なんだ。


それなのにその男は……。


梨華にお金だけ渡して、何事もなかったように暮らしている。


そんなの許せるはずがない……!


俺の話を聞きながら、梨華の顔がひどく歪んでいって。


そして無言で、首を何度も横に振った。


「訴えるなんてやめてよ。

そんなことしたら、彼の立場が大変なことになる。

篤弘を巻き込みたくない……」


「は? 何言ってんだよ。

もともとはその男がいけないんだろう?

奥さんや子供がいるのに、梨華に声をかけて来たんだから。

そのせいで梨華は妊娠して。

奥さんと子供は裏切られたんだ。

その罪を償うのは当然なんじゃないのか……?」


それなのに、男の社会的立場が悪くなるだと?


いくら未練があるからって、庇う意味がわからない。