「そんな時だった。

私のお腹に、彼との赤ちゃんが出来たのは。

すごく戸惑ったけど、でも同時に……。

もしかしたらこれをきっかけに、私と一緒になってくれるかもしれないって思ったの。

子供が好きな彼だし、私達の子供を見てみたいんじゃないかなって。

だけど……」


そう言うと彼女は、悲しそうに自分のお腹にそっと手を置いた。


「ごめんって言って、お金を渡された……」


「梨華……」


「向こうから仕掛けてきたくせに。

私のことが好きだって言ってたくせに。

それなのに、子供が出来たらあっさりと捨てたのよ。

そんなヤツよ。

だから、もう全然好きじゃない!

好きじゃないけど……。

でも……」


梨華の目に一気に涙が溜まる。


そして、それはあっという間に彼女の頬を伝っていった。


「本当は一緒になりたかった……。

彼と結婚したかった……っ!」


そう言って梨華が、わぁっとベッドに顔を伏せた。


やっぱりそうか……。


梨華は、不倫相手の男にまだ未練があったんだ。


必死に忘れようとはしているけれど。


でも、なかなかうまくはいかない。


それもそのはず。


梨華は一度人を好きになると、その人のことしか見えなくなるんだ。


大学教授に対しても、ものすごく一途だった。


それは、俺が一番良く知っている。


だから、相手が既婚者だろうが。


一度好きになったら、もう後へは引けなかったんだ。


こんな結末を迎える可能性があるとわかっていても……。