「菜穂、あのさ……」


「ん……?」


「こんなこと言ったら、きっと菜穂は怒ると思うけど」


何……?


一体、何を言おうとしているの……?


「キスしていい……?」


まさかの言葉に、思わず秀哉の顔を見上げた。


ここへ来て、初めてまともに発した言葉がそれ?


「いい……?」


また聞かれて、私は無言でブンブンと首を横に振った。


そんなこと出来るわけがない。


少なくとも、今は……。


「お願い、菜穂。

あとで俺のこと、好きなだけ殴ってもいいから……っ」


苦しそうに必死に訴える秀哉。


本気で言ってるんだ。


どうして……?


「無理だよ、秀哉。

そんなこと、絶対に出来ない」


秀哉には、梨華がいるのに。


秀哉は、梨華が好きなのに。


なんでそんなことを言うの……?


どうしていいかわからずに、下を向いたら。


秀哉が右手で私の頬をすっぽりと包み込んだ。


あ、どうしよう。


本当にするつもりだ。


まずいと思った私は、顔を横に背けようとした。


だけど秀哉はそうさせないように、私の顔をクイッと自分の方へ向けて。


少し強引に私の唇を塞いだ。