「秀哉……」


うそ……。


本当に……?


まさか秀哉がここに来るなんて。


絶対に来ないって思っていたのに。


どうしよう。


秀哉の姿を見ただけで、なんだか泣きそうになる。


秀哉はここまで走って来たのだろうか?


額に汗をかいて、肩で大きく息をしていた。


「イベントに来てくれたんだよね?

でも、ついさっき終わっちゃったんだ」


時間を案内していなかったら、間違えたのかもしれない。


申し訳なかったな。


「あっ、そうだ。

せっかく来てくれたんだし。

秀哉、ここにある花を持って帰らない?

捨てちゃうから、好きなだけ持って帰ってもいいんだって。

花束を作ってプレゼントしたら、きっと梨華も喜ぶと思うよ」


確かあの子も、花が好きだったはずだから……。


さっきから何も言葉を発しない秀哉。


私だけが、一方的に話している。


一体どうしたんだろう……。


さすがの私も、それ以上言葉が出て来なくて。


テントの入口と奥で、じっと向かい合っていた。


「菜穂……」


しばらく無言だった秀哉が、ようやく口を開いた。


せつなそうに呼ばれて、ドキッと心臓が跳ねた。


「菜穂……!」


もう一度私を呼んだかと思ったら、秀哉はスタスタと急ぎ足で私の方に向かって歩いて来て。


いきなりガバッと私を抱き寄せた。


その反動で、持っていた花束が手の中から離れて。


パサッと地面へ落ちていった。