俺のこうした態度に、お父さんはもう何も言わなかった。


逆に、言い過ぎたと謝られてしまった。


大切な一人娘が結婚するとなると、どんな父親だって相手の男がちょっぴり憎らしいはずだから。


言いたかったことが言えて、もう気が済んだのかもしれない。


だけど、俺の心が晴れることはなかった。


だって……。


俺と梨華は結婚するけど。


梨華を妊娠させたのは俺じゃない。


俺と梨華はまだ抱き合うどころか、キスさえもしていない。


それなのに、妊娠させたことを謝罪しないといけないなんて。


もちろん、わかっている。


梨華にプロポーズするということは、こういうことも含まれるのだということを。


だけど……。


俺のせいではないことで頭を下げないといけないのは、やっぱりつらい。


そんな気分だったから、最後のデザートはとてもじゃないけど喉を通らなかった。


「ちょっとすみません。お手洗いに行って来ます」


そう言うと俺は、ここに来て初めて席を立った。


それまでなんとか笑顔を保って来たけれど、もう限界だった。


トイレに入り鏡の前に立つと、憂いたような顔をした自分の顔が映っていた。


深呼吸をして、どうにか気持ちを落ち着かせてみるけど。


さっきお父さんに言われた言葉が頭の中で何度もリピートして、離れてくれそうになかった。