優しい人だった。でも優しさだけじゃなくて、その柔らかい瞳の奥にどこか冷静に見える厳しさもあって
そしてこの人はいつだって、わたしのピンチの時に何も言わずに駆けつけてくれるような人で、綾乃との勝負の時だってそうだった。

「…どうして、わたしを指名してくれたんですか…?」

ソファーに座ってグラスにも手をかけずに不躾な質問を投げかける。
小笠原はいつもと変わらない笑顔を向けて、グラスに氷を落としていく。

「あたしが!!」

「いいんだよ。だいぶん疲れているみたいだ。
お水でも飲んだ方がいい……」

カランと涼しい音を立てて、氷がまたひとつグラスへと滑り落ちていく。
小笠原が思い出したように小さく笑う。

「あの頃と同じ事を言うもんだから」

「え?」

「どうしてわたしを指名してくれたんですか?って。
初めて僕が君をシーズンズで指名した時と同じ事を1番に言うもんだから、おかしくって
やっぱりさくらちゃんは面白い。けれどそこがいい」

「褒められてるのか微妙なのですが……」

「まるでさっきの君は僕を見つけてから絶望した顔ばかりしていたよ。
思っている事が全部顔に出てしまっているんだよ。きっとこう思ったんだろう。ゆりを指名しに来たって」

「それは…」

「それとは逆に、ゆりは僕を見つけてすぐに駆け寄ってきた。自分を指名しに来てくれたって。
本当に君たちは正反対で、実に面白い」