菫の言葉が止まる。
一瞬、高橋と菫とわたし、シンと静まり返ってまるで時間が止まったかと思った。
ゆりと三浦はワイングラスを持って、勝利を確信している。
さっきわたしが勝利を確信したのと同じように。
お客さんもまばらになったフロアの中で、高橋に一本、インカムで連絡が入る。
高橋は血相を変えて、突然わたしの手を掴んだ。そのまま強引に引っ張られるままに、エントランスへ連れていかれる。
真っ白いドレスが、風に揺れる。
床の絨毯に足を取られて、履いていたヒールが脱げそうになった。
それでも高橋は気にせずにわたしを力強く引っ張っていく。
エントランス前、ゆりの大きなバースデーポスターが飾られた場所で、黒服が何やら話している。
「あ………」
黒服と話している人は、もうよく知る人だった。
ゆりのポスターを眺めて、顎を何回かさすっていた。
ONEの黒服も、よく知る人だと思う。低姿勢になって彼に頭を下げる黒服が、慌ててこちらへ向かってくる。
「店長、小笠原さんなんですが……」
「見りゃ分かる……」
わたしの腕を引っ張ったまま、高橋は黒服の言葉を無視して、ゆりのバースデーポスターを見つめる小笠原の元まで歩いて行った。
ONEではゆりを指名。キャバ嬢を滅多に指名しないというその人は、わたしが初めてシーズンズで自ら指名してくださいと言ったお客さんでもあった。
でもここはONEで、そしてゆりのバースデーでもあった。
ゆりとの勝負を正直に小笠原に話した時、どちらにも加担できない、と彼らしい返答を貰った。
当然の事ながら、ゆりも小笠原に営業をかけていただろう。間違いなく。



