「ロマネを………」
営業終了30分前。
ヒールのかかとを鳴らしてこちらへやってきたゆり。
漆黒のドレスに身を包んだ彼女の瞳に、もう曇りは何ひとつ無い。
三浦は確かに大手芸能プロダクションの社長だ。でもこのバースデー連日売り上げを上げていたお客さんのひとりで、高橋はもうこれ以上三浦さんは使えないと言っていた。
けれど光の新店に一枚かんでるのは彼で、ゆりをメディア露出させたお店で儲けようと企んでるのは彼だった。
誤算だ。
ひっくり返せる程の売り上げを、そう思っても桜井はもうお店にいない。
いま現在指名で残っているお客さんも、他の女の子の助けもあって、搾れるだけ搾ってもらっている。
ゆりと同じ、わたしにだってもう売り上げを上げてくれるようなお客さんはいなかった。
「負けるわけにはいかない…」
そうわたしの隣にきて呟いたゆり。
真っ直ぐな瞳が見つめる未来を、私は……。
「ミエの事は感謝してる。
あなたがミエに戻るように言わなかったら、あのお客さんは帰っていたと思う。
そうしたらあの卓での売り上げも全部パーだった。
…でも勝負する上で、相手に情けをかけたあなたの負けなの。
あなたはやっぱり人としてはあたしより優れているかもしれない。でも……キャバ嬢としては絶対に負けられないの」
静かにロマネコンティが運ばれていく。
ゆりが席に戻り、三浦は無表情でこちらを見つめていた。



