けれど一緒に過ごす時間内に、ひとつでも多くの満足をお客さんに感じさせるのが私たちの仕事。きっと課題。
その時間に価値を見出して貰えたのならば、そして楽しかったと笑ってくれたのなら、それ以上なんて、きっとない。
「失礼します」
VIPルームに入ってきた黒服より先に、雪菜が室内にズカズカと足を踏み入れる。
桜井の顔を見て、安堵の表情を浮かべたのをわたしは見逃さなかった。
「雪菜さんです」黒服に紹介されるより先に彼女はVIPのソファーにどかりと腰をおろした。そして首をしめるように桜井の作業服の襟を力強く掴んだ。
「もぉ~!!!遅いってのぉ!!ひやひやしちゃったじゃんか!!」
「雪菜ちゃん、ごめんごめん」
「ごめんは1回でいいっつの!!!
桜井さんったらさくらがONEに勤めだしてからずっとお店にいるよって連絡してるのに
勇気が出ない…とかぐちぐち言ってちっともお店に来やしないんだもんっ!!!」
「だから、ごめんってぇ!!」
雪菜は桜井の上に馬乗りになりそうな勢いだった。
少し酔っぱらってるのか、けれどその表情は心なしか明るかった。
雪菜の体をするりとすり抜けて、何もなかったような顔で桜井は焼酎に口をつける。
「さくらちゃんの事は桜井さんからずぅーっと聞いてたのっ!」
「雪菜ちゃん、それはいいから!!」
桜井は焦りながら、雪菜を止める。



