「桜井さん……」
「結果的にはね、あの頃確かに俺は何かに逃げていたと思う。
自分の冷めきった家庭に帰るのが怖くて、家族とも向き合おうとしなかったし、所帯持ちでありながら君に彼女になってほしいっていうなんて最低だろ?
でもさくらちゃんに突き放されて、改めて家族ときちんと向き合ってみようって気持ちになれた。
相変わらず仕事は忙しくて、中々家に帰れない駄目な父親だとは思うけど、息子とも妻ともいい距離感で接する事は出来るようになった。
だから全部さくらちゃんのお陰だって思ってる」
「そんな……あたしは何も……」
あの時した選択が正しいか正しくなかったかなんてわたしには分からなかった。
けれどいま、目の前で笑う桜井を見ていたら、何だかとても安心した。胸に突っかかっていたつかえがひとつ取れたようで
「そうしたら君にもう一度会いたくなったけど、今日まで勇気を出せなかった」
「…あたしも、会いたかったです」
心からの本心が、言葉に出た瞬間だった。
そしてあの日のとっかかりが消えていった日でもある。
わたしたちは時間内にお客さんに優しさだったり、楽しみだったりを提供する。でもそこに必ずお金が動く。
形のないものを切り売りする中で、高額なお金が
お金の価値観なんて人それぞれで、それでもお金を使った人が優遇されて、お金を使わせたキャバ嬢が勝つ世界の中で、汚いも綺麗もない。お金なんてただの紙切れにしか過ぎないから。



