「あれ……桜井さんだよな?」
「うん…だね」
「さくら、連絡とってたのか?」
「まさか……。
シーズンズであたしから店に来ないでって言ったんだよ…。
それに桜井さんONEではゆりさんを指名してるって聞いた事あったし」
「…じゃあ、指名はゆりさんか…」
明らかに落胆したような高橋のトーン。
言いたい事は分かる。
桜井の売り上げが、この勝負を左右することだって
光がどうしても七色のお客さんにしたかった人だ。実際桜井は若手社長の中でも段違いにお金を持っている人だったし
わたしもあの時桜井がいれば綾乃には余裕で勝てただろう。けれど、その未来を選ばなかった。だからやっぱりわたしにとっては特別な存在だったのだと思う。
桜井が笑いながら、ゆりの手を離した。
そしてくるりと振り返って、颯爽とこちらへ歩いてきた。
ドキドキと心臓が高鳴っていくのが分かる。彼が近づいてくるたびに。
「さくらちゃん、久しぶりだね!!」
名前を呼ばれ、その笑顔を向けられた時、涙が出そうになった。
変わらぬ、優しい笑顔。
「高橋くんも久しぶりだなぁ…。髪型が違うから、全然誰か分からなかったよ!」
「桜井さん!お久しぶりです!!」
「それにONEの店長をいまやってるなんて…あの時はシーズンズの黒服だったのに!すごいね!」
「いやぁ…まぁ期間限定の店長と言うか…仕方がなくっていうか…
そんなすごい事じゃないんですけど」
わたしと高橋を交互に見て、変わらぬ笑顔を向ける。



