「人に無理をさせないあなたに無理をしてくださいと言われちゃねぇ…。ヘルプの子にはちゃんと伝えとくよ!
だいじょうぶ!いままでお客さんに無理をさせてこなかったあなたなのだから、こんな時くらい皆協力してくれるわ。
それに指名数なら、あなたの方がずっと多いんだから!」
「……ふと昔から思っていた事を思い返していたんです。
売り上げが上がることより、指名本数が多かった事が嬉しかったって……
何か指名が多い方が沢山の人に必要とされてるみたいで、嬉しいじゃないですか。そんな単純な理由ですけど…」
「そうね。あたしたちの仕事って人に必要とされる事で成り立ってるんだから、大切な事じゃない?
この2日は死ぬほど飲むよ!」
雪菜の瞳がきらきらと輝きだして、なんだか嬉しくなってしまった。
こんな風に自分の事を思ってくれるのはもちろん嬉しかったけど、彼女が楽しそうに仕事をしているだけでその場の雰囲気が変わっていくんだ。
やっぱりすごい人だよ……。
ゆりがシャンパンを空けて行く。
そんな中で、今日もONEはオープンから満員状態だった。
自分の指名客がどれだけいるか計算して、自分はどう回って、ヘルプをどこに配置させようか考えていた。
本来ならば黒服がする仕事だけど、雪菜はいつだって自分で考えて自分の意見をきちんと伝えてきた。その彼女の後姿をこの2週間見てきて、こんな人になりたいと憧れたものだ。
いままで沢山のキャバ嬢に出会い、尊敬する人に会った。けれどここまで憧れになったのは、雪菜が初めてだった。
彼女の働き方、お客さんへの接し方は、この世界に入って初めて、こうなりたいという目標になっていた。
何も考えずに、ただただ復讐のためだけに入った世界で、こんな出会いが出来るのは幸せな事だ。



