今更そんな事を嘆く父親に苛立ち、父親の胸倉を掴んだ。
しかし目の前の男は顔色ひとつ変えずに話を続けた。
「そうだ、私はかすみを捨てた」
「なっ!!」
「かすみを愛していたのに…
当時働いていた取引先の娘…。茉莉花に気に入られ、結婚を迫られて
かすみと付き合っていながら、茉莉花を選んだのは紛れもない私自身だ。
その事に言い訳はしない」
「容易く人を捨てられたくせに愛していたなんてあんたが言うな!」
「…朝日、お前はとてもかすみに似ている…」
「そんな事…関係ない。
あんたが母さんを捨てなかったら…」
「あの時…茉莉花と結婚すれば会社が手に入って、すべての夢が叶うと思っていた。
けれどそれと同時に私には強い迷いがあった。
そんな私の迷いに1番に気づいたのもお前の母親、かすみだった…。そしてかすみは迷わずに茉莉花を選べと言った…」
「母さんが……?」
「後押しをしてくれたのは、かすみ自身だった…。
私は当時かすみがお前を身ごもっている事も知らずに茉莉花と結婚した。
結婚して暫くしてからだった…。かすみが死んだ事を知ったのも、朝日が産まれていた事を知ったのも…」
「そんなのどっちでもいい…
あんたが母さんを捨てた事実は変わらない…」



