腹違いの兄弟で、本妻のいるこの屋敷で、俺の居場所はやっぱりなかったように思えるから。
でもその居心地の悪さとくれば光や綾も、義母も父親さえもそうだったのだろうか。
父親はひとつの本を取り出し、その中からおもむろに1枚に写真を俺へ差し出した。
古びた写真の中に、ひとりの女性が写っていた。
父親は俺に背中を向けて、大きな窓から外を見て、静かに語りだした。
「お前の母親。
宮沢かすみは、孤独な人だった……」
手の中に写る、初めて見た自分の実の母親。
物心がつくまえに亡くなってしまった、俺の母親。
「私がかすみと出会ったのは、自分の田舎が嫌で上京した頃でな。
私は仕事で成功してやるという野望を若い頃から抱いていながら、お前の母親とは出会った…」
「この人が………」
「お前も知っている通り、かすみは親の借金を返すために夜の仕事をしていた。
今どき親の借金の為に働いている絵にかいたような不幸な人生を送っていた。
けれど、本当に綺麗な人だった。
出会ってすぐに私はかすみと恋に落ち、結婚の約束をした」
「結婚?」
そんな話は誰にも聞いた事がなかった。
「私はかすみを愛していた」
「何を!!
あんたは母親を捨てたんだろ!」



