一瞬シンと静まり返って、綾がキッチンから帰ってきて俺へコーヒーを差し出す。
ありがとう、と言ったら綾はやっぱり俺たちを交互に見て気を使った感じで「久しぶりに部屋にでも行こうかなぁ」と独り言のように呟いた。
空気を読んで立ち上がろうとした綾を引き止める。
「いや、綾も。
今日はふたりに話があったんだ…」
そう言うと綾は静かに兄貴の横に腰をおろし
そして兄貴は「俺も…」と呟いた。
「話と言うか…
今日は光にお願いがあって、来たんだ…。
まぁそれと親父にもちょっと話があって……」
「お願い?」
兄貴の表情。
眉をひそめて、何かを考えるようにコーヒーカップに口をつける。
彼が自分の人生を歩み始めた時から、俺に頼み事をする事はなくなっていった。
その兄貴が俺にお願いなんて言うなんて
ふぅと小さくため息をついて、広い天井を見上げた。
煙草に火をつけたと思えば、すぐに話し始める。
「光にお願いっつーのは七色グループの事なんだけど」
「七色?」
その名前に、心臓が高鳴っていく。
ずっと話をしていない。会話という会話なんてずっとなくて
俺の裏切りに対する兄貴の気持ちも聞いた事がなかった。
文句も恨み言も言わずに、俺のする事に口を閉じてきた人だ。だから俺はいまだにこの人の本音が分からないんだ。



