【完】さつきあめ〜2nd〜

そう言って綾は立ち上がる。
パタパタとスリッパの音を鳴らしてキッチンへ向かう綾の後ろ姿を見て、ふと大きくなったなぁと思った。
小さい頃は、俺や兄貴についてばっかりいた小さな女の子だった。
母親似とも父親似とも言えない彼女は、幼少期から物静かな女の子だった。こんな家庭環境で育ってきたと思えば当然か。
それでも小さな時はまだ無邪気に笑っていた。年を重ねるごとに段々笑わない女になっていった気がする。さくらが死んで、俺と兄貴がますます距離を置くようになって、俺たちの側で1番悲しい想いをしてきたのはいつだって綾だったんじゃないか。
いつだって俺と兄貴の間で、困っていたような気がする。

そんな綾に最近彼氏が出来た。
最初はバーで働いてる男つーからどういう奴かと思ってはみたけど
年内に夜の仕事を上がって、昼の仕事をするらしい。
不愛想な男だったけれど、きちんとしていて信用出来る感じのしっかりした男だった。
話を聞けば夕陽と同い年。大切な物をしっかりと大切に出来る。俺と兄貴より、全然大人だと思った。
そしてそんな男が綾の側にいる事。少しだけ安心した。あいつは人に頼る事が苦手な奴だから。この世界でひとつくらい我儘を言える場所があって良かった。

「なんだ、あいつ」

「綾は最近幸せそうで何より」

「はぁ?!」

「いやぁ?別に。
俺も兄貴も婚期逃しそうだし、案外最初に結婚するの綾だったりして」

「んな訳あるか!綾は一生結婚しねぇ!
そもそもホスト崩れのあのクソガキと結婚なんてぜってぇ許せねぇよ!!
あいつは俺の事をおっさんなんて呼んだり、クソ生意気すぎる!絶対許さない!」