ぼんやりと、故郷の父親の姿を思い返していた。
わたしは母親に抑圧されて生きてきたけれど、父親はそんなわたしに対して何も言わなかった。
いつも母親の後ろに隠れて、何か言いたげにしていた姿だけがやけに印象に残っている。
「ごめんなさい…」
振り絞って言った言葉はそれが精いっぱいだった。
「僕に、何か謝る事はあるのかな?
君の人生に僕が干渉する資格はないよ。
それよりも久しぶりに君に会えて本当に嬉しいんだ。
君に見て欲しいと思っていた書籍が随分たまっていてね。また感想を聞かせてくれないか?」
そう言って、小笠原は鞄の中から何冊かの小説を取り出した。
随分の間、本も読んでいなかった。小笠原が取り出した小説は、彼とわたしが好んで読んでいた歴史小説の作家の新作だった。
「ありがとうございます。あたしもまたこうやって小笠原さんと一緒に過ごせること、嬉しく思っています…」
わたしの言葉に、また小笠原は優しく微笑んだ。
「久しぶりだし、今日はちょっと良いワインでも飲もうか?
由真も呼んでくれるかな?双葉では由真がいっつも居たから、ここで君とふたりなのは何か変な気分だ」
「ありがとうございます!由真さん呼びますね!」
すぐに由真はVIPルームにやってきた。
このお店は由真の為に作られたのではないのかと言う程、双葉のホールに立つ由真はお店によく映えた。
立っていても、座っていても、歩いていても絵になるような女性だった。



