「VIPルームに指名ですよ。小笠原さんです」
その名前を聞いて、余計に背筋が伸びる。
今日から双葉で仕事復帰をする、と言った。小笠原は1番にわたしに会いに来てくれた。感謝しかない。
「小笠原さま、いつもありがとうございます。
ご指名のさくらさんです」
VIPルームは、まるで高級料亭のようなたたずまいで、一瞬飲み屋さんだと忘れてしまうくらいの造りで出来ていた。
壁に掛けられた掛け軸の価値なんてものはわたしには分からない。けれどそれが高級品であるのは、物の価値のわからないわたしでも何となくわかった。
そしていつもと変わらず優し気に微笑む小笠原の上品な雰囲気に双葉のVIPルームはやけにマッチしていた。
深く頭を下げた沢村が小笠原に近づくと、少しだけ世間話をして、小笠原は機嫌良く声を上げて笑っていた。
一言二言話した後、「ではごゆっくりなさってください」と言い残し、また小さく頭を下げてVIPルームから出て行った。
沢村が出て行ったのを確認して、小笠原と目が合う。
いつもと同じ。出会った頃から変わりやしない自愛に満ちた瞳で、小笠原はわたしへ無言で微笑みかける。
わたしも小さく微笑みを作って、小笠原の隣へ腰をおろす。
「いやぁ、驚いた。
由真から君が双葉へ移籍すると聞いた時は本当に驚いたよ」
まるで子供でも見つめるように柔らかい瞳で、わたしを出迎えでくれた人。
前と変わらず接してくれる小笠原を前にして、ぎゅーっと胸が押し付けられるような気持ちになる。
ごめんなさい。何度伝えればこの気持ちが伝わってくれるだろう。連絡が取れなくてごめんなさい。心配をかけてごめんなさい。沢山の伝えたい言葉はあったのに、いざ目の前にすると何て切り出していいのかわからなかった。



