「お前は将来どうする気なんだ?アレがうるさくてかなわん…」
「別に…将来の事とか決めてねぇけど……」
「そうか……」
父親は母親と違って小さい頃から俺に会社を継げなんて言った事がなかった。
この人が本当に愛していたのは俺や綾なんかじゃなくて……
「じゃ、俺ただ顔見せにきただけだから」
「光………」
振り返った父親はいつかみたいに柔らかい表情を作った、そして名を呼ぶのだ。
「朝日は、元気か?」
俺や母親の手前、兄貴を可愛がってる姿を見た事はない。
けれどこの人がどれだけ兄貴を気にかけて、大切にしているか、痛いくらい知ってる。
それを、そんな父親の気持ちを、俺の気持ちを、兄貴はひとつも知らない。気づいていない。それをどれだけ羨ましく思っていたかなんて兄貴は知らない。
嫌になるな。
小さい頃からの癖で人の気持ちに気づくのが敏感で、でも周りは思っている以上に鈍感で
だからさくらと付き合いが長くなればなるほど知りたくなくても気づかされた想いがある。
誰といる時に笑っているか、誰といる時に感情が揺れ動くのか
世の中なんて知らない方が幸せな事だらけだ。けれど気づかない振りをして、彼女だけは譲らなかった。
俺はいつだって、本当に欲しい物だけこの手に出来ない。捨ててしまいたい程いらない物ばかり、この手の中にある。そしていらない物さえも捨てれないところが弱さだ。



