「離しません……」
「離せって言ってんの!
話になんない!
あたしがどれだけの決意を持ってこの移籍話にオーケーを出したかなんてあなたにはちっとも分かんないんでしょうね!
あたしの気持ちなんてあなたには分からない!」
「分かります!」
「何が……分かるって言うのよ」
誰かを憎んでしまうほど強い想いがこの世にある事。
大切な人を傷つける苦しみも
ゆりの気持ちを全部理解する事なんて出来ない。わたしはわたしで、ゆりはゆりなのだから
けれど全部じゃない。ほんの少しは理解してるつもりだ。
こちらを見下ろすゆりの、眼の淵が赤く染まる。
唇を噛みしめて、苦しそうな顔をした。そんなゆりの顔を見るのは初めてだった。
「自分じゃあ朝日の店を守れない?だからあたしに頼るの?
あなたにはプライドっていうものがないの?」
そこにあった意味のないプライド。
ちっぽけな自分が守り続けたプライド。
そんな物、もう何もいらなかった。
座っていた椅子からおりて、冷たい地面に膝をつく。
ゆりの表情が苦しそうに動いていく。
わたしはその場に倒れこむように床に手をつき、ゆりへと頭を下げた。



