せっかく手に入れた幸福は、いつだって指の隙間から滑り落ちていく雨のように、零れ落ちていく。

’もしもさ、辛い事があったなら、いつでも俺の所においで。
ずっと連絡先も変えずにいるから、夕陽に何かあったらすぐにかけつけてあげるから’
何でこんな時に、あの人の言葉が
何でこんな時に、あの人の笑顔ばかりが

朝日、わたしはやっぱり弱かったと思う。
自分の中に確かな想いがあるのに、どうしても苦しみに耐えられなかった。

雨の中、青白い携帯の画面を無表情に見つめる。
ずっと手にしてなかった電話番号。
見る事さえ止めていた番号。
震える手で、光の番号にタッチして、ほぼ無意識に電話をしていた。

電話の奥で、無機質な機械音が流れる。
耳の奥に響いて、それもいつしか聞こえなくなって、雨の音しか聞こえなくなった。

「バカみたい…」

ふっと笑って独り言を言う。
あんな言葉真に受けて、自分が辛い時にだけ光に頼ろうとするなんて最低じゃん。
そんなのわたしが1番嫌いな人のする事じゃない。
弱い自分に耐えきれなくて、誰かにすがろうとするなんて。
それに時刻はまだ0時前、ちょうど仕事が忙しい時間だ。そんな時間に、光が電話に出れるわけないじゃん。