「じゃあ、帰りますね」
「あぁ…」
「ねぇ…忘れてください…この家であったこの1ヵ月の事…」
「さくらがそれを望むなら…」
伸びっぱなしだった、朝日の金色の髪が、朝の光りに照らされて、眩い程に煌めく。
前髪の隙間から見える鋭い視線が、あの頃は怖かったし、嫌いだった。でも真っ黒の朝日の瞳にはいつだって寂しさや悲しさが隠されていた。
強引にわたしを引っ張ったあの腕が、今日はどこか迷っている。
光と同じ体温を持つ人、何度も抱かれた腕の中、わたしは憎んでいたって、この人の事を
全部忘れて、本当は忘れて欲しくない。
朝日はわたしにした事を後悔している。その全てを忘れて欲しい。
けれど忘れて欲しくないなんて…わたしを優しく抱いた腕を忘れて欲しくないなんて
やっぱり人は誰かの為に何かをしたいなんて嘘だ。
わたしはそんな高尚な人間なんかじゃないよ。
夜の世界を生きるわたしたちが、朝の光りを浴びて、さよならをする。
ふたりの間にあった事を無かった事にする。
それでも忘れないで欲しかった。
「朝日……」
「え?」
朝日は、上を向いて、真っ青な空に浮かぶ光りを目を細め見つめる。
「違いますよ、朝日はあなたの名前でしょう」
「あぁ…」
確認するように、真っ青な空を見つめた後、わたしの顔をじぃっと見つめる。



