【完】さつきあめ〜2nd〜


「生きてるのか死んでるのかさえ分かんないですよ。
まぁ生きてたとしてもあたしの事なんて忘れちゃってるんじゃないですかね?
あたしだってあんな人、母親なんて思った事ないし」

「きっと…何か事情があったんだよ…」

「ほんっとさくらさんって大切に育てられた人間の考え方してますよね。
たとえ事情があったにせよ子供を見捨てるような親、最低ですよ。

あたしは、絶対に見捨てたりしない……」

美月は視線を真っ直ぐに移して、鏡に映る自分を見て強く言った。
そして直ぐに立ち上がって「おつかれさまでした」と言って更衣室から出て行った。

あんなに苦手だったのに、誰かの感情に触れるとこんなに切なくなる。
誰だって環境が変われば、彼女のようになっていたのかもしれない。
母親の事を覚えていない朝日が求めているのもまさにそれで、けれどわたしは美月や朝日の気持ちに寄り添いあう事は出来ない。
どれだけ気持ちを聞いたところで、同じ気持ちになってあげるのなんて不可能な事なのだから。
それを可哀想だと思う事など、もってのほかだ。