【完】さつきあめ〜2nd〜


わたしの言葉に、美月は意外そうに目を丸くする。

「…何?」

「いや、さくらさんからそんな言葉出るなんて意外かなーって。
さくらさんはきっとあたしとなんかと違って育ちがいいし、見てるだけで分かるんですよ。両親がいて、当たり前に愛されて育ってきた子って。
愛とるなもそうだから、よく分かる。
そういう子たちは真っ直ぐだから、素直に人の言葉を受け取れるし、あたしにしてみたら綺麗ごとでも、それがごくごく当たり前だから
あたしも皆みたいに普通の家庭に育ってきたら、そういう子になれたのかな……」

深い悲しみの色。
いつもどこかで感じていた。
彼女の感じた事や経験してきた事なんて、わたしは知らない。
けれど彼女にだって言い分はあるだろうし、わたしの知らない悲しみを知っている。

「普通ってなんだろうね」

そう問いかけると、まるで可笑しな事でも聞いたように彼女は笑った。

「普通っていうのはまさに両親が揃っている家庭ですよ」

光や綾乃のように両親が揃っていても、心に何かを抱えている場合だってある。
一概に両親がふたり揃っていても、幸せだとは言えないんじゃないだろうか。

「あたしは母親は小さい頃に逃げちゃうし、父親は自殺なんかしちゃうし
どう考えたって普通とは違うでしょ?」

「…美月ちゃん、お父さんが亡くなった後にお母さんとは会わなかったの?
…生きてるんだよね?」

美月は曖昧に首を傾げた。
まるで自分の事なのに他人事のように微笑んでいた。
彼女の小さな顔が揺れるたび、大きい瞳が細まるたびに、何故だろう。こんなに切なさが増していくのは。