【完】さつきあめ〜2nd〜

「いいですよ、そんな遠くないし」

「いいから一緒にいてぇんだよ」

朝日は余り車で移動する人ではなかった。
仕事関係では車を一切使わなかったし、一緒に暮らしていた頃は外出なんてした記憶はない。
だから朝日の車に乗るのは初めてだった。
見栄っ張りなこの人らしい、外国のワゴンタイプの大きな車だった。

「成金って感じの車ですね~」

「あ?何か言ったか?」

「いえいえすごく乗り心地がいい素敵な車ですね!」

「お前はいちいち俺のカンにさわる事を言うのが得意だな」

光の車も乗り心地の良い車だった。あれは国産車だと思うけど。
なんて光の事を朝日といる時に考えてしまっている自分を頭の中でかき消した。
そんなの、朝日にも光にも失礼だ。
ふと横を見つめると、車を運転する朝日の横顔。出会った頃は何とも思わなかったのに、やぱりふとした表情が光によく似ている。
光の事を思い出すと、いつだって胸が痛くなる。でも朝日と一緒にいるという事でいつまでも光の存在はわたしの中で消える事はないのだろう。

家の前で車を止めると、朝日はまたわたしにキスをした。

「はぁ~…帰したくねぇなぁ…」

なんて可愛い事を言う人だろう。
ここまで素直でいられると好きな気持ちが止まらなくなってしまう。