心の奥から溢れそうな気持ちなんて、あの頃沢山あったはずなのに…。
溢れた気持ちの行き場所さえ分からなくて。迷子の子供のようにさまよっていたあの日。

「俺はさ、お前みたいに純粋で綺麗な人間でもねぇし、今まで沢山人を傷つけてきたりもしてさ
傷つけて、人を物のように扱っても何にも思わねぇような酷い人間だったと思う。俺さ、小さな頃に誰もが経験するような当たり前の幸せって奴を知らずに生きてきたからさ、貰えなかっただけ奪うのが当たり前って最低な考えもしてきたと思う。俺を大切に思ってくれていた人間も中にはいたのかもしれねぇのに、それをずっと見て見ないふりしてきた…」
時間を戻せるなら、戻してぇよ…」

宙を見上げる朝日の顔はわたしの知ってる朝日とは程遠くて、やっぱり叱られた小さな子供みたいだ。

「宮沢さんがそうやって思いながら生きてきたのは全部が宮沢さんのせいではないよ…。
人は少なからず環境とかに影響されて生きてるんだから…。」

「ふん、お前はやっぱり優しい奴だな、俺にあれだけ酷い事されておいて」

「それでもあたしは…宮沢さんの良いところも知ってる…」

「さくら……」

紛れもない真実なんだ。良い面も悪い面も見て、それでもこの人といたいとか好きだって思えたのなら
その気持ちはきっと嘘なんかじゃない。

灰皿に押し付けられた煙草の吸殻。
ゆっくりと紫煙が宙を舞い上がり、跡形もなく消えていく。
消え入りそうな物を、消えないように、ずっと大切にしたかっただけ。

「俺と結婚してくれないか?」