「いらっしゃい、ゆりちゃん。久しぶりだね」
「えぇ、マスター久しぶり」
わたしから2個空けたカウンター席にゆりは座って
鞄の中から煙草を取り出して、火をつけた。
「何飲みますか?」
「ビールもらえます?忙しかったんだけど、アフターの席ですっかり酔いもさめちゃって」
「はい、ビールですね」
そう言って、グラスを冷蔵庫から取り出す。
バーは閉店して、カフェになったんじゃないか、とつっこみは止めておく。
お茶を一気に飲み干して、逃げるように席を立とうとした。その時だった。
「あら、何も逃げるように帰る事もないんじゃない?」
涼しい声で、でもこちらを見ずに、真正面を向いてゆりが言った。
何故に見透かされるんだろう。思わずゆりの方へ視線を移すと、彼女もこちらを見て、ばっちりと目が合ってしまった。
笑いも怒りもしない。その表情はただ無表情で、それでもその視線はわたしをとらえて離しはしなかった。
差し出されたビールを一気に飲んで、「一緒に飲みましょうよ」とグラスをかかげた。
その表情にやはり笑顔はなかった。
「おつかれさま、双葉のナンバー2嬢さん」
「なっ!!」
「あら。事実じゃなかったっけ?
2か月も新人の、しかもあんな馬鹿そうな小娘にナンバー取られるようじゃ、あたしになんかいつまで経っても勝てないわよ?」
今度はにっこり笑って皮肉めいた事を言う。



