母親がいて、でも母親は死んでしまって、厄介者として引き取られて、でも子供だったからそこから逃げ出すことも出来ずに、ただただひとりきり。真っ暗な世界で生きていたような気がする。

お母さんってどうなんだろう。幼い頃は母親を愛しく思う気持ちはあったが、いつからか憎しみに変わっていった。

けれど8歳の時に父親だと現れた人物に引き取られて
突然家族だと言われた弟や妹。
そしてそこで光は俺に誰よりも親切で、優しかった。
俺が手にした事のない物を全て持っていた光は、いつだって嫌な顔をひとつもせずに、自分の持っている物を何でも俺にくれた。
この家で1番俺に優しかったのは実父でもなく、もちろん義母でもなく、光だった。だから俺にとっての光っていうのは、あの日初めて会った日に見つめた、眩い程の光り。希望そのものだったんだ。

俺と光と綾。
光はいつだって優しい言葉をかけて俺を慕ってくれたし
小さな綾は俺によく懐いてくれた。
そこには俺が今まで探し続けて、けれど絶対に掴むことのなかった幸福があった。

お腹いっぱいご飯を食べて、普通の子と同じように学校へ行ける。
そんな誰にでも手に出来るものが、何物にも代え難い幸福なのだと知る。

それでも大人になっていけば、俺を傷つける言葉はそこら中に転がっていた。

「ねぇ、ユキさん、アイジンって何?」