【完】さつきあめ〜2nd〜


美月のあんな顔見た事あっただろうか。
わたしたちキャストにも、お客さんにも見せた事のない顔。
誰かを好きになるのに理由なんてない。わたしだってそうだった。けれど、どうして朝日なのだろう。
ナンバー1を奪われた子が朝日を好きだなんて、どうしてこうも嫌な予感ばかり当たってしまうのだろう。

わたしたちの方へ向かってくる美月は鼻歌なんか歌いながら上機嫌で、けれどわたしに気づいて、切れ長な鋭い瞳をこちらへ向けた。ような気がした…。
美月は知らない…。わたしと朝日の間にあった事なんて。何にも知らないはずなのに、美月がわたしへ向ける視線が厳しいような気がして。まるで美月がわたしを意識しているような気がして。

美月が更衣室へ戻っていって、わたしとレイは気づかれないようにそーっと待機の場所に行こうとしたけれど

「さくらさん!レイさん!おはようございます!」

威勢の良い元気な挨拶が聞こえる、振り返るとそこには沢村が立っていた。
出勤前から気分の良くなるようなハキハキとした沢村の挨拶が嫌いではなかった。けれど、今の状況を考えて、わたしへ声を掛けてくる沢村に苛立ちを覚えた。

沢村の声に、朝日と由真の視線が一斉にこちらへ向いた事が分かった。
ばっちりと朝日と目が合ってしまったけれど、すぐにその視線は由真の方へ向いて、その由真は心配そうな顔をしてこちらへ目を向けた。
わたしは慌てて待機のソファーに隠れるように座った。