「お疲れさまでーす」
ある日の営業終了後、更衣室に行くとそこには鏡台の椅子に座る美月ただひとり。
わたしの顔をちらりと見て、すぐに鏡に向かって「おつかれさまです」と愛想のない声で言った。
今日は愛とるながアルバイトに入っていない日。そんな日は決まって美月はひとりになる。それが平気な感じで、鏡に向かって頬のファンデーションを直していた。
気まずい空気が流れて、早く着替えてしまおうとロッカーから服を取り出す。その時珍しく美月が話しかけてきた。
「さくらさんってずっと双葉のナンバー1なんですか?」
「いや…あたしは…双葉には3月に入店したばっかだし…」
「へぇ!じゃあ入店して1ヵ月でナンバー1になったって事ですか?」
「まぁ…。でも双葉の前に系列のTHREEとシーズンズにもいたし…
ここのグループにはもう丸2年いる事になるから」
「ふぅん。そうなんですね」
聞いといて、全く興味無さげに美月は答えた。
「美月ちゃんは、この仕事未経験なんだよね。それなのにすごいね」
その言葉に、切れ長の大きな瞳をこちらに向けて、わたしの顔をじいっと見つめた。
「別に…。こんな仕事結局どんな事したって売り上げあげれば勝ちだし
大体あたしがすこーし売り上げ伸ばしたらおばさんたち機嫌悪くなったり、意地悪したりさ、下らないんだよね。
そんな下らない奴らにあたしが負けるわけないし、別にすごかないですよ。お客さんもキャストも皆下らないんですよ。
ちなみにさくらさんにも全然負ける気しないんですけどね」



