美月と愛とるなは中学の同級生だったらしいけれど、美月だけはバイトではなくレギュラーだった。
本職、というわけだ。
美人で強気な性格。けれどお客さんの前では１８０度性格が変わって、この１ヵ月を過ぎて、新人の中では頭がひとつ抜きんでていた。
それくらい目立つ子で、自分からぐいぐい指名を取っていくタイプだ。
気の強い人が多い業界で、美月のような女の子は何ら珍しくない。
わたしが苦手なのは、そういうところではないのだ。

わたしは基本的に毎日が指名で埋まっている。
でもその僅かな時間の中で、フリーの新規のお客さんに着く事がある。
そこで美月と当たると、軽いストレスになる。

「お母さんの顔も知らない」

何度も聞いた。美月の身の上話。

「お父さんはアル中で死んだ」

絵に描いたような不幸な境遇を、彼女は笑って話すのだ。
家庭環境に問題がある事は、さっして珍しい事ではない。けれど嘘か本当かわからないその話は、かなり悲惨な物だった。

美月の母親は美月が物心着く前に家を出て行ったらしい。
そして小学生の時に、アル中で年中お酒を飲んでいたお父さんが、家に帰ったら自殺していた。
そこから会った事もない親戚の家をたらいまわしにされて、中学を出てから高校には進学せずにアルバイトをして食いつないできた。
まるで小説でも読んでいるかのような不幸話。嘘か本当かは知らない。もしかしたら本当にそんな人生を歩いている人だっているのかもしれない。
けど、美月はその不幸話をよくお客さんにしていた。